『知の航海2012 ぐるぐるエネルゴロジー Vol.2 「これからの種(タネ)」』で、野口種苗研究所の野口さんのお話を聞いて来ました。
野口さんは「固定種」を扱っているタネ屋さんで、固定種と「F1」というスーパーなどで売られている一代限りの雑種(英語でいうとハイブリッド)についてが主な内容でした。
◎取材・文 ナオヤ(agasuke)
固定種とF1
固定種とは、自家採種すれば、親と同じタネがとれる、農業に疎い人の感覚でいうと、ごく普通のタネ。ふつうのタネからは、人間がみんな身長や体重や顔が違うように、まあまあ不揃いの野菜ができます。江戸時代にはその土地土地にあった大根が200種類もあったのだそうです。
F1は、メンデルの法則より、両親の優性形質だけが現れるため、見た目が均質になり、また、「雑種強勢」という力が働くため、短期間で成長するのですが、その野菜から採れたタネを植えても、同じようには育ちません。
固定種は、形や大きさが不揃いになりがちなので、どうしても市場ではねられてしまう。また、成育に倍の時間がかかり、生産量でも劣り、収穫のタイミングもバラバラになるため、どうしても値段を上げざるを得なくなる。そういう意味で、むしろプロの農家さんのほうが固定種を育てるのが難しいという現状があるようです。
都会のひとが育てるのに向いている固定種
また、田舎の農地よりも、都会の屋上やベランダの方が、F1など他の花粉と混ざる心配がないため、固定種を育て、種を取るところまで考えると、プロの農家さんより、都会の人間が自分が食べる分だけを細々と育てるほうが向いているとの話もありました。実際、ゴーヤやトマトのF1を育てたことがあるのですが、2年目以降は無残なものです。これが翌年以降もきちんと育てていけるとなると、モチベーションが俄然変わってきそうですよね。
「昔の野菜はもっと味が濃くて栄養もあったんだけどよー」って話をよく聞きます。よく聞く割にピンときてなかったのですが、F1が成育が早いから、大根だと2ヶ月で出荷できてしまい、でもそれまでは3〜4ヶ月かけて育ててたから、時間がかかる分きめ細かく密度が高かったと聞いてやっと腑に落ちました。
F1によって変わる世界
F1をつくる際、生産性が重視されるため、以前より味が落ちているとのことで、カブなんかは、昔は皮ごと生で食べられたのが、現在はレシピ自体が変わってしまったのだそうです。
また、F1という雑種をつくるためには、同じ品種同士で受粉させてはならないので、以前は手作業でおしべを取り除く除雄という作業が行われていたそうです。現在では、雄性不稔という花粉が出ない異常な個体を利用してそれを増やす技術がどんどん増えているようです。
この雄性不稔の植物の受粉作業を行うミツバチが、その蜜を餌にするために女王蜂が卵をうめなくなったのではないか。また、世界中で男性の精子数が世代ごとではなく年々減っていることも、これに関係しているのではないか。という野口さんの仮説も興味深く聞かせていただきました。
野口種苗
野口さんのお店(野口種苗)のサイトを見に行った時、アトムや火の鳥の絵が使われていて、おいおい大丈夫かよ!と思ったのですが、野口さんが虫プロ時代に編集者として担当したもので、許可をきちんととっていたということにびっくりしました!
野口種苗のサイトでは固定種のタネや参考資料を買うことができます。
»野口のタネ オンラインショップ