まるごと、活かしきる。 瀬戸内・佐島生活研究グループ はっさくマーマレード作り

愛媛県の離島・佐島で、長年はっさくマーマレードを作り続けてきた「佐島生活研究グループ」。彼女たちのマーマレードは、大阪や東京など様々な街のお客さまの元へと、お取り寄せされています。はっさくをほぼ丸ごと使った島のマーマレードの、製造現場をレポートします。

◎文・写真 増田薫

「食生活を支えて」
瀬戸内海のほぼ真ん中、芸予諸島に属する佐島は周囲約10キロほどの小島だ。
小さいながらもかつてはかんきつ作りが盛んに行われ、「昔は大百姓(おおびゃくしょう)が多かったンヨ」と、教えてもらったことがある。

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その佐島でイギス豆腐作りや味噌作りなど、地元の食材を活かした活動を続けてきたのが「佐島生活研究グループ」だ。戦後復興期、農村の食事情を改善しようと農家のお嫁さんたちによって作られ引き継がれていき、かつてはみかん摘みの折、島にやって来る手伝いの人たちが食べる弁当作りを取り仕切っていたこともあるそうだ。
メンバーはその時々で入れ替わり、現在はモッちゃん、ヨウコさん、オオカワさん、のりこさん、キクちゃん、ショウコさん、すずちゃん、ミヨネエの8人。60代から70、80代と続き、最高齢のミヨネエは91才になる。
彼女たちがはっさくマーマレードを作り販売し始めたのは今から17年ほど前、平成10年頃のことだ。

「はっさくを活かす」
江戸時代に広島県の因島で発見されという伝統と、果肉のハリ、そして独特のほのかな苦みが魅力のはっさくも、食べやすい甘さが好まれ、品種改良によって糖度の高いかんきつが新しく生み出されていく時代の流れからは、取り残された存在になっていたのかもしれない。

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当時のことをリーダーのすずちゃんは「苦いじゃあ、皮をムグ(剥く)のが面倒じゃあ言われて、売上が落ちたンヨ。それで少しでもはっさくを活用させようとしたンか、(農業改良)普及所の人達が来て、マーマレードの作り方を指導してくれたンヨ」と教えてくれた。

 

「島の畑で育まれた恵み」
はっさくマーマレード作りは佐島にある工房「味彩館」で、毎年1月の終わりから3月の終わりまで繰り返し行われる。
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工程は大きくわけて3回。1日目には皮と実の下ごしらえをし、2日目には煮て瓶に詰め、1週間ほどおいて蓋への包装紙掛けやラベル貼りを行う。
マーマレードの材料になるはっさくは、その時々で家の畑に成っていたメンバーが持って来るそうで、どれも「まあ、ほぼ無農薬じゃけどね」と思わず笑って答えるほど、超が付く低農薬育ちだ。

「皮をむく」
運び込まれた大量のはっさくのまずは外皮を外し、皮と実を分けてドンと机の上に置いて、1日目の作業は始まる。
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誰が何をするかは「いつの間にかそうなった」そうで、球体の実を2,3房に分け、上部の筋を一直線に切る人、その切り口から指を入れ薄皮を剥き果肉と別々にしてボウルに分け入れる人、外皮を8等分ほどの櫛形に切って内側の白い綿を包丁で削ぎ落す人と、打ち合わせする訳でなく、自然とそれぞれの作業に分かれる。

ゆったりと微笑んで「包丁は何でもええンヨ。自分の使いやすいのンで」と教えてくれながら、外皮担当のキクちゃんは滑らかに小出刃を動かして内側の白い綿を綺麗に削ぎ落すと、透けるほど薄くなった外皮を、更に2ミリほどの太さに千切りにした。
手際の良さに思わず見とれていると「白いのがあると苦みが残るけんね」と、やわらかく教えてくれた。

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「まるごと、天然」
佐島生活改善グループのはっさくマーマレードには、この外皮や実はもちろん、むいた薄皮と種までもしっかりと使われている。
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その薄皮と種は「ペクチンを取るのに湯がくんよ」と、すずちゃんがテキパキ教えてくれた。
ひたひたの水で20分ほど炊いてからざるにあげておく。自然に滴り落ちてきてボウル一杯に貯まるのが、レモンの搾り汁に似た色合いのペクチンだ。
ペクチンはマーマレードにほどよいとろみを与えてくれる。市販のものを試しに使ってみたこともあるけれど、やっぱりこうして取ることができる天然ものの方が良かったそうだ。
「じゃケン、マーマレード作りは3月の終わり頃までにしとンヨ。それからあとはペクチンの濃さが『薄く』なるケン」すずちゃんがそう説明を加えた。
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「ジュースをしぼって」
2日目にはマーマレードを炊く。昨日のうちに皮をむいた果肉を専用の機械でジュースにして、外皮、薄皮から取ったペクチン、砂糖と一緒に炊き込み、仕上げにレモンの搾り汁を入れる。
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ジュースを搾るのは最年長のミヨネエとキクちゃんペアだ。キクちゃんが椅子に乗って機械に果肉を投入していき、ミヨネエは果肉が盛られたボウルをキクちゃんに渡したり、その合間に、できたジュースから丁寧に灰汁をすくい取ったりする。
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購入してから20年ほど経つと言う機械は「どうしても詰まってしまうんヨネ」と言う訳で、たまに一時停止して、刃の間やジュースが絞り出される口に入りこんだ果肉や皮を取らなくてはならない。そのタイミングは、音や振動などでミヨネエが見極めて決め、うなずいたり首をちょっと振ってみたり、無言のままキクちゃんに合図して伝える。
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刃の部分に取り付けるネットもミヨネエが綺麗に繕ってくれているそうで、「91歳よ、この人。私のお母さんくらい。ホント、こういう風に年を取りたいと思う」とすずちゃんは敬意を込めて言った。

「その時、その味わい」
ジュースを絞り終えると、他のメンバーが空いた道具を洗ったりお昼ごはんの支度をしたりする間に、ミヨネエとキクちゃん、そしてふたりより若いしょうこさんの3人でいよいよマーマレードを煮始める。
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ゆっくりと水分を飛ばしながらだいたい1時間、焦げないように底から木べらで鍋をかきまぜ続けるしょうこさんの手も顔も、うっすら赤く染まる。やがて鍋の中でマーマレードの泡が弾ける音がポツポツと小気味よい響きに変わったと思ったら、その色合いが一段と深みを増した。
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木べらを斜めに差し込んで固さを見ながら「どうかねえ、いいかねえ」とつぶやくと、しょうこさんは糖度計を出してきて、マーマレードをひとしずく垂らし、日にかざして糖度を確認した。一定の数値に達してしていれば完成だ。
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毎回同じように作り、こうしてきちんと毎回、糖度を確認するけれど、できあがりの固さや甘みは、不思議とその度ごとに微妙に異なるそうだ。
「それが自然のもので作る手作りの魅力かネエ」すずちゃんは笑う。
はっさくそのものが違う、その日の気温や湿度も異なる。そうしてできるマーマレードは、その日その時だけの貴重な味わいを持つようになる。

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そして、大切なことをもうひとつ。
はっさくマーマレードを作る途中のちょっとしたおしゃべりの中で、誰かが、「私たちはお金をかけないで、あるもので作るケン、その季節でしか作れんのんヨネ」と言った。
佐島で実ったはっさくを、ほぼまるごとぎゅっと煮詰めて作られるマーマレードは、自ずとその季節だけのものになる。グループのメンバーは決して気負わずナチュラルに、貴重な「季節限定品」を生み出しているのだ。

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今あるもの、つまり、土地と季節の恵みを自分たちの手で活かし切り、美味しくいただく。
365日いつでも同じ味、同じものを買って口にできる豊かさとは別の、豊かさ、暮らし方を、私たちは小さな島の工房で教えてもらうことができる。

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以下の写真保留

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