「ようこそ、摘み菜の島へ 瀬戸内・弓削島『摘み菜クッキー』」

トッピングしたりミックスしたり。季節のお花や海草、果実をあしらって作る焼き菓子、
「摘み菜クッキー」が瀬戸内の離島・弓削島で作られ始めたのは、今から7年ほど前のことです。
親子で、めぐる季節を感じてもらいたい。
4人の女性たちの手で、野草のクッキーは焼き続けられています。

◎文・写真 増田薫

季節の恵みをいただく『摘み菜』。

「摘み菜」とは、身近に息づく季節の野花や海草を摘み、料理やお菓子に仕立ていただくこと。
その摘み菜の考え方をお菓子に変えて、ちいさな花やかんきつ、海草を使って焼き上げた「摘み菜クッキー」は、瀬戸内のほぼ中央に位置する離島、弓削島で作られています。
焼き続けてきたのは、「なでしこ・ゆげグループ」の4人。今日は、花やかんきつのピールにジャム、海草を持ち寄って、早朝7時に集まりました。



ヨモギを知らない子供たち

もともと気の合った知り合い同士が、「なでしこ・ゆげグループ」としてお菓子作りを始めたのは今から9年ほど前。同じく地元の女性たちが協力し合い運営していた直売所で、初めは、レモンクッキーや野菜クッキーを作り売っていました。
そんな彼女たちが、「摘み菜クッキー」を焼くようになったのは、ヨモギを知らない子供に出会ったことがきっかけでした。
「中学生の子たちと一緒に野山に出て、『摘み菜』のフィールドワークをすることになったんです。その時、ヨモギを知らない子供がいて、もうびっくり!いくら『それがヨモギなンヨ。アンタが今踏ンどるのがそうなンヨ』と教えてもわからない。衝撃を受けました」
たとえ草もちのことはかろうじて知っていたとしても、それが、足元に生えるヨモギを使って作ることまで子供たちは知りません。
「つまり草もちを作る工程に参加していないんです。いかに、身近な草花を子どもたちが『見て』いないのか、親子で草花について話す機会がないのかを、あらためて感じました」

アロエの花。ていねいに刻んで、クッキーの上に散らす。

野草の暮らしから、遠ざかって

ヨモギだけではありません。例えばワラビやツワ、フキ。自分たちが幼かった頃は当たり前に、母親に教えてもらいながら季節の野草を取りに行ったのに、気が付けばそんなことはされなくなっていました。また、自分自身が子育てをしていた頃も、わざわざ子らと一緒に、野草を採りに行くことはなかったそうです。
「勉強やクラブ活動で、子供たちも昔と違って朝から晩まで忙しくなりましたからね」
親子の暮らしが、かつてとは違っていました。
「でも、もし花のクッキーがあったら、食べながら『これが何々なンヨ』、なんて、花のことを話すきっかけになるんじゃないかと思って」
そんなメンバーの思いから、なでしこ・ゆげグループの「摘み菜クッキー」は生まれたのです。

作業はしずかに「あうんの呼吸」。つまようじなどを使って
花弁や葉を広げ、野草をあしらっていく。

こちらはひじきのトッピング。海で採ってきたものを乾燥させて保存。水で戻して使う。


身近に生きるものを活かす

摘み菜クッキー作りは、山や海の植物を摘むところから始まります。
自宅の畑で実ったカリンをジャムにする、ヨモギをペースト状にすりつぶす、アオサノリを乾かしパウダーにする、乾燥ひじきを戻しておく、浜辺でツルナを、路傍でハナカタバミやクローバーを摘んでくる・・・。
あらかじめ加工しておかなくてはいけないもの、当日の早朝でないとしぼんでしまうもの。それぞれの特性によって、準備の方法やタイミングは異なります。
誰がどれを用意するのかという担当は決まっているのか、とたずねると
「それは何となく・・・。今はお互い何も言わなくても、それぞれ採れるものを摘んで来ることになっています」と、笑いながら教えてくださいました。
特別珍しいものを無理して採ってくるのではなく、身近に息づいているものを活かす。だからこそ、本当に身近にある自然を、感じられるのかもしれません。

今だからこの場所だから、できることが大切
摘み菜クッキーの生地は、ひとつひとつ手で絞り出して作られていきます。
そのため、いつでもきちんと同じものができる型押しとは違い、手の加減で毎回、かたちや大きさが微妙に異なるものができあがります。そして焼き上げる季節や、その年の気候によって、用いる花ももちろん変わります。
「でもそれもまた、いいと思う。その時、その季節にだけ、できるものを作る。そして『弓削』だからできるものを作る。それが、いつでも同じものができる大量生産のものとは違う、わたしたちの良さ、手作りの良さだと思います」

焼きあがったクッキー。あたらしく咲いたように、生地の上で花開く。

無理なく、たのしく

現在、なでしこ・ゆげグループの4人のメンバーは、家族の仕事で、ひとりは関東ひとりは関西と、普段は弓削島から遠く離れた場所で暮らしています。
彼女たちが、たまにミカン畑の世話や墓参りで島に帰る時に合せ、クッキー作りは続けられてきました。それも無理のない範囲で。4人が全員集まったのも、今日が偶然、そして久しぶりのことだそうです。
「強制じゃないから続けられてきたと思う」
めぐりゆく四季のように、その時々で暮らし方や家庭環境もまた、変わり続けていくもの。生き急ぐのではなく、足らない時間を嘆くのではなく、その時できるかたちで続けていく・・・。そんな自然なスタイルは、今咲いているちいさな野草の美しさに気付く、 素直な心に通ずるものかもしれません。

10枚のクッキーを、ひとつひとつ並べるように袋の中へ入れていく。

足元にあるものを大切に
「摘み菜クッキーを作り始めてから今までよりもっと、足元に咲く花に目がいくようになった」、「たとえば、次はこんなことをやってみる?と、思ったことを気軽に話し合えるのが楽しい」とメンバーたちはうなずき、笑い合います。
弓削島に咲く、つまり、彼女たちの足元に息づく野草を見つめて。摘み菜クッキーは焼かれ続けています。

※摘み菜クッキーは、弓削港最寄り「海の駅 おいでんさい」または「しまでカフェ」で販売されています。
お取り寄せのお問い合わせは、株式会社 しまの会社まで。